日本漢文の世界

 

漢訳不如帰




漢譯不如歸 上篇 (一)の二(1)

[原作] 民友社版3頁; 岩波文庫(新版)8頁
 「御孃(おじよう)――おや如何(どう)(いた)しませう、また(くち)(すべ)つて、おほほほほ。あの、奧樣(おくさま)唯今(ただいま)(かへ)りまして(ござ)います。おや、眞闇(まつくら)奧樣(おくさま)エ、何處(どこ)御出(おいで)(あそ)ばすので(ござ)います?」
 「ほほほほ、此處(ここ)()るよ」
 「おや、ま、其處(そちら)に。(はや)御入(おはい)(あそ)ばせ。御風邪(おかぜ)()しますよ。旦那樣(だんなさま)はまだ御歸(おかへ)(あそ)ばしませんで(ござ)いますか?」
 「如何(どう)(あそ)ばしたんだらうね?」と障子(しやうじ)()けて(うち)()りながら「(なん)なら帳塲(した)其樣(さう)()つて、御迎人(おむかひ)をね」


御孃・・・女主人は結婚したので「奥様」と呼ぶべきだが、いままでの習慣で「御嬢様」と呼びそうになり、あわてて言い直した。


[漢訳] 漢譯不如歸3頁
 有一老媼焉。徐呼曰。阿孃否恭人。在何處乎。曰。在此。媼笑曰。媼對恭人依然不捨舊稱。耄耋可知。且曰。郎君歸來頗遲。曰。妾亦憂之。茫然忘歸室。



老媼・・・おばあさん。
阿孃・・・「おじょうさま」。「阿」は、日本語の「お」の訳語として使用されることがある。しかし、中国での用語法では、「阿孃」とは母親のこと。
恭人・・・高位の人の妻。ここでは「おくさん」の訳語として用いられている。
耄耋・・・おいぼれ。「耄」とは90歳、「耋」とは70歳のことをいう。
郎君・・・だんなさま。
妾・・・・女子の自称。
茫然・・・がっかりして、うつろな気持ち。



[英訳]
  “Miss -- Oh, what is the matter with me -- I am so forgetful,” Iku said, laughing. “Madam, I should have said, I have just returned. How dark it is. Madam Nami, where are you?”
 Nami, as she was called, replied, “Here I am.”
 “Why are you out there? Come in, quick; you’ll catch cold. Hasn’t master come home?”
 “What is he doing, I wonder?” said the lady, as she opened the screen and entered the room.
 “You had better ask the clerk to send some one for him.”


2009年10月4日公開。

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