本の内容:
漢文は、訓読法によってひっくり返して読むものではなく、中国語であたまから読むべきものだとして、その具体的訓練方法を示しています。そして、なんと漢文の知識を足がかりにして、現代中国語文を読めるようになることを目指すという、壮大な目標のもとに書かれています。
中国古典にピンイン(中国語発音ローマ字)をつけた本としては、倉石武四郎先生の『中国古典講話』(1974年、大修館書店)のほうが出版年次は早いのですが、本書のすごいところは、単に漢文を中国音で読むだけではなく、漢文を中国語で読むとはどういうことなのかを、実践的な方法として示したところにあります。
まず、通常の「書き下し文」の代わりに、「音訓の棒読み」が提示されます。ちょっと実例を引用します。本書26・27ページより。
(原文)宋人有耕者、田中有株、兎走触株、折頸而死。
(音訓の棒読み)
「なんだこれは?」と最初は思うかもしれませんが、これが極意なのです。これを並べかえて「頸を折って死んだ」のようにするのが訓読法で、そのまま「折っ 頸を、て死んだ。」と読むのが直読法なのです。
著者は、さらに進んで、中国語音で読めるようにと、カナ、ピンイン(中国語発音ローマ字)を用いて中国語音を表記していますが、そのカナも、著者考案(「田秀式」と名づけられています)のものです。そして、漢文に現代中国語訳を対置させ、その現代中国語訳にも「音訓の棒読み」がつけられるなど、周到に漢文から中国語文の理解へと導いていきます。組版も見開きで一つの事項が完結するようにするなど、学習者にわかりやすくするための工夫が随所になされています。中国語の学習書といえば、例の簡体字に苦労するものですが、田中先生の本は、日中両国の簡体字が同じ形の場合は簡体字、違う形の場合は旧漢字を使用しており、この点も漢文から入ろうとする者にはありがたい配慮です。
本書の終わりの方には魯迅の『孔乙己』など、現代中国語の一級作品が載っています。これが最終目標というわけです。
この本は、漢文から中国語へ導くように書かれていますが、逆に中国語を学習した人が、漢文へ理解を広げるのにも役にたつはずです。
漢文と中国語の関係に興味をもたれる方にはぜひとも読んでいただきたい本です。
2001年9月9日公開。