本の内容:
石碑の碑文を採録し、解説した本はいままでにもありましたが、建碑のいきさつや、建碑に関係した人びとのことまで詳しく調べた本は嘗てありませんでした。本書が最初ではないかと思います。石碑には建碑にかかわる人びとの思いが刻みこまれているので、建碑の背景まで調査してこそ、真の石碑学だということを示した名著です。
本書は、京都にある数ある石碑のうちから16基を選んで、それにまつわる逸話や関係人物を徹底的に調査したものです。しかし、その中には、建碑の当事者たちの都合で事実がねじまげられている(ひどい)石碑もあるのです。
「耳塚修営供養碑」はその顕著な例です。豊臣秀吉が作った「耳塚」は、朝鮮での戦功を誇るために作られたものですが、明治時代、その傍らに建てられた「耳塚修営供養碑」には、「耳塚」が敵の兵士まで供養したものであり、「赤十字社」の博愛精神にも通じるものだ、と書かれています。これは、「耳塚」が、当時わが国の国際赤十字社への加盟資格を証明する有力証拠として大いに利用されていたからなのです。このように、碑文には時代背景や建碑関係者の都合が大いに入りこんでくることがあるのです。
本書のもう一つの魅力は、多くの漢文による碑文を取り上げ、それを卓越した読解力で、縦横に読解しておられるところです。碑文の原文(漢文)も全部載せてあり、非常に参考になります。従来の石碑解説書の訓読あやまりを容赦無く指摘しているところなどもあり、なかなか痛快です。
本書「あとがき」では、石碑採訪の具体的方法(営業秘密!?)が、惜しげもなく公開されています。けれども、それを知ったからといって、著者のまねのできる人はおそらくいないだろうと思います。この本はそういう種類の本です。
2002年8月31日公開。